違反に感謝

衝撃的なニュースがはしった。先日、元アイドルグループのひとりが現行犯で逮捕された。道交法違反(酒気帯び運転)の現行犯だった。このニュースを見て、僕は、肝を冷やしました。車を運転しているひとりの運転者で、無関係ではいられなかったからです。

運転免許を所有する人の多くは、道路交通法違反でキップを切られた経験があるのではないでしょうか?その証拠に僕が運転免許の更新に行った際、ゴールド免許(いわゆる無事故無違反)の人は全体の3割程度しかいない。免許を取得して20年がたとうとしていますが、僕は事故2回、違反3回という残念な経験をしている。

違反についていえば、一回目は進入禁止の違反です。会社の行く道ですが、いつも通っていたので、なんの疑問もなく侵入したところ警察の方に声をかけられました。「しまった!」っと思いましたが、時すでに遅し。警察の方に丁寧に説明を受けて、進入禁止マークがあることを教えてくださいました。僕も、知ってはいたが、会社へのショートカットができることや信号待ちをせずに行くことができるのでよく使っていた道でした。それからというもの、その道は使わなくなりました。キップをきられた嫌な事を思い出すからです。

二回目の違反は、駐停車禁止の場所で駐車してお店に入って出てきたところ駐車禁止違反のステッカーがフロントガラスに貼られていました。いわゆる駐禁です。「やっちゃったーっ」どんな時も、後悔先立たず。違反のステッカーを見ながら、自分自身に”バカヤロー”と何度も責めてしまいました。その日は気分がどん底。その道を通るたびに駐禁で罰金を払ったことを思い出すのでした。

どの違反も忘れることができないことです。しかし、三回目の違反はちょっと特別でした。

週末、会社が休みだった日。子供二人を乗せて近くの本屋さんに向かおうとしていました。近所なので慣れた道でした。田園風景が広がる見通しの良い道で僕の好きな道でもあります。息子も慣れた道なはずです。なぜなら彼の通学路だったからです。その慣れた道で一旦停無視をしてしまったのです。別に急いでいたわけではありませんが、他に理由があったのです。その理由を知れば違反したときの心理状態がお判りいただけるのではないかと思います。

本屋に行くことになったのは、息子の勉強する本を買いに行くことになったからです。僕は、ゲームにばかり夢中で全く勉強に身が入らない息子を見て将来が心配になりました。ちょうど、前日に会社帰りに本屋に立ち寄り、ちょうど良い本を見つけ、息子に読ませたいと思ったからです。本をその場で買っても良かったのですが、馬を水辺につれていけても水を飲ませることはできないように、本人にその気がないのに本を与えてもしょうがないと思い、買わずに帰ったのでした。それもあってか、息子に説得するかのように勉強の話題をして、欲しいかどうか尋ねたところ、欲しいと言うので本屋に連れて行くことにしました。本屋に連れ出すところまでは成功したものの内心は歯がゆいものを感じていたのです。私の説得にも「うん」としか答えず、分かっているのか分かっていないのかの返事を繰り返すだけ。まるで自分事ではないといった顔をしていたからです。今思えば何度も同じ話をしていたように思います。「将来はどうするのだとか」、「今やらないと間に合わない」とか・・・。焦っていたのは息子の方ではなく私の方だったのです。そんな気持ちで運転していたものですから前方を見ているようで見ていなかったのかもしれません。本屋に行く道中、通学路を車で走ると同じ中学の子たちが部活の帰りで日焼けした活発な感じを受けました。それに比べうちの子は、家でゲームをし休日は外出もせず、青白く、いかにも不健康そうに見えました。その様子を見ていて、余計に悲観していたのかもしれません。

学校を過ぎ、静かな田園風景を走って国道に差し掛かる道の手前に一旦停止表示がありました。道路にも”とまれ”いった白線が引いてあったのを僕も知っていましたが、その日はそれに気づかなかったのです。良く晴れた日でした。その交差点を左折しようとスピードを緩めて素早く左右を確認。車が来てないことを確認した僕は左折して、そして車を走らせました。珍しく白バイが後ろを走っています。子供たちにも、「あ、白バイ。珍しいな」って言ってバックミラーを見ながら親指で後ろを指さしました。こんなところ走るんやねって冗談を言った途端。

「ウ~!!」とサイレンが鳴った。

えっ、と思いバックミラーを再度確認したら、警察官は指さし道路に停車するようジェスチャーを出している。「えええええっ。おれか?」すぐに路肩に車を止めました。白バイもバイクを止めて降りてきた警官が僕の車まで来ました。

「運転手さん、どこか急いで行かれるんですか?」

「いえ、今から本屋に行くところです」

「あそこに一旦停止があるのご存じですか?」

「ええ、知っています」

「運転手さん、あそこの一旦停止で止まりましたか?」

「・・・はい。止まったと思います」と弱々しい返事をしてしまいました。

急に警官が来たものですから、心臓がバクバク緊張が走ります。

サングラスを取ったその警官は、なんと女性でした。黒く日焼けした顔が印象的な方でした。その女性警官は教えてくれました。先日、隣町で一旦停止を無視した男性が衝突事故で無くなったことですよと。そして、こう僕に言ってくれたのです。

「運転手さん!あなたもおなじ事になってほしくないんですよ。悲しい思いさせたくないじゃないですか」

そう言うと、後部座席に乗っていた子供の姿をチラッと見ました。

「はい・・・。ごめんなさい」思わず、こぼれました。

女性警官に運転免許書を見せるように言われ、カバンから取り出し渡しました。前の違反の時もそうでしたが、警察は免許書を見ながら紙に記録し、違反切符を切るのです。しかし、その女性警官は免許書を見て、ここら辺に住んでることを確認、僕にこう言いました。

「気を付けてくださいね。今回は厳重注意です」

といって免許書を返してくれたのです。僕は驚きました。思っていたことと違うからです。思わず

「ありがとうございます」

いろんな思いを込めて言いました。そして熱いものが胸にこみあげるのを感じました。

私は、その警官に命の尊さを教えてもらった気がしました。こんな気持ちは初めてです。もしかしたら、あそこで命を落としていたかもしれない。自分の命ばかりか子どもの命まで。そんな悲しい思いはしてほしくないという強く、優しい気持ちが伝わってきました。そして、その女性警官に感謝をしたのです。

それからというもの、僕は一旦停止は必ず車を停止させることになりました。感謝と共に。

人生での経験とはそれをバネにして成長するための教訓なの。だから、ほんとうにひどい出来事なんてないわ。

Nothing is really bad; all of life’s experiences are lessons from which to grow.

スザンヌ・サマーズ(米国の女優、作家 / 1946~)より引用